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[決着] 部屋はひっそりと静まり返った・・・ 額に汗を浮かべながらランはゆっくりと両腕を下ろした。 スーはミキに近寄ると「ありがとう・・・」 肩を抱き寄せ、目の辺りを気遣いながら、そっと囁いた。 「わたし・・のせいよ・・・」 「私さえ、しっかりしていれば・・・」 崩れていたケイコはそうつぶやくと立ち上がり窓辺へと向かった・・・ 目に涙を浮かべながらケイコは両手を広げレバーを下げた。 一瞬、激しい風が室内を駆けめぐる マドのカーテンがなびくとそこにいたケイコの姿はすでに無くなっていた。 「ケイコー!」 ドア越に俊夫が叫び声を上げた。 「ケイコー!」 ランが窓辺を振り返った・・・ 「わたしに任せて!」 ミキの体から激しい光が放たれると一瞬にしてミキの姿が消えた! 次の瞬間、ミキは高速で落下するケイコの体を抱きしめていた・・・「あんたって何てバカなの!」 再びミキの体から光が放たれた・・・光はケイコをも包み込むと激突寸前の所でパッと消えた。 窓辺で眼下を見下ろすラン、スー、俊夫はただ悲痛な叫び声を上げるしかなかった。 【ドーン!】3人の後方から激しい音が鳴り響く。 振り返るとベットに上にミキとケイコがきつく抱きしめ合っていた。ベットのスプリングが激しい 揺れてている。 3人は急いで駆け寄った・・・ ミキはゆっくりと、からめた腕を体から離すとケイコの左頬を強く平手打ちした。 「バカーッ!死んでどうなるのーっ!」 ケイコはただ、その頬を押さえ泣いていた。 ベットが濡れるほど、ただ激しく泣いていた・・・ 「済まなかったケイコ・・・私を許してくれ!」 「許してくれ・・・ケイコ・・・」 そう言うと俊夫はケイコを強く抱きしめた。 それを見ていたランとスーも大粒の涙を浮かべていた。 一つの事件が解決した。 事件と言っても私達は今回の一件を警察はもとより外部に知らせる ことはしなかった。 捌きを受ける者は誰もいない事件だったが、もし見逃せばケイコのような 犠牲者が、また現れたことだろう。 あのあと、田中は翌朝になってようやく目を覚ましたようだ。 目を覚ました田中に仲は上手く 話を作り、ケイコは怒って帰ったと説明した。 そして全ての約束を白紙に戻し、食って掛かる 田中を仲は「これ以上、ふざけた事を言うと作曲家協会に提訴するぞ!」と啖呵を切ったと言う。 田中はそれ以上は何も言えず小さくなっていたと言うから、見てみたかったものだ。 ちなみに私達のことは夢だと上手く誤魔化してくれていた。 ケイコも再出発を誓ってくれた。 仲も初心に帰り全力でバックアップすると言う。 今回のことで私達は天使の言葉が少しだけ理解ができた。 「この能力は愛の力」だと言うことが・・・ |
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[解散への決意] 「みごろ〜」の収録がはじまった〜ランがミキの顔を見て声を掛けた「似合ってるよ。」 「ランのばかっ。」 ADが収録5秒前の合図を送った・・・ 「ミキちゃん、大丈夫か?」 「無理しなくていいからな。」 MPPの新田が気遣って言う・・・ 「大丈夫です。」 「心配掛けてすみません。」 左目の眼帯が痛々しいミキが笑顔で返した。 この頃、ミキの眼帯姿がファンの間でもチヨットした話題となっていた。 ミキは「買い物中での事故」として誤魔化していたが私達は真実を知っているだけに笑え なかった。 今となってはミキの優しさが溢れたエピソードの一つとなっている。 年末、最後の夜を私達は2度目の紅白の舞台に立っていた。 そして、春を迎えると私達は大切な決断をしなければならない。 5年目の契約更改があるからだ・・・3人の最初の約束だった3年目から、すでに1年が過ぎていた。 事務所とは常に1年ごとに契約更新をしなければいけない。 その運命の年が明けたのだ・・・ 3月に発売された13曲目のシングル「やさしい悪魔」が大ヒット。 そして「デビルキャラバン」と銘打ち<、全国11ヶ所をめぐるコンサートがスタートした。 キャラバンも終盤に差し掛かった3月30日、私達は神戸の地に立っていた。 昨日の京都に続き、多くのファンが付いてくれていたが、私達は彼らに事情を説明し、リハーサル までの一時をプライベートタイムとして3人だけの時間と、してもらった。 マネージャーもそれを了承してくれた。 会場となる「文化ホール」は市街地からは少し離れており、回りは静かな町並みの景色が広がっていた。 空一杯の青空と光り輝く緑が美しい・・・ 少し先には県庁があり、立派な建物が並んでいるが、行き行く人の影もまだらで、私達は一時の開放感を 味わっていた。 「どう、どうせならちょっと神戸観光でもしてみない?」ランが言った。 「それ、いいね。是非、行ってみたい。」 3人の意見が一致し、私達は通りを走る一台のタクシーを呼び止めた。 3人を乗せると 「お客さん。 どちらまで・・・」 ドライバーがそっけなく尋ねてきた。 「3時間程度しか空きがないけどゆっくりと過ごせる場所へ案内して欲しいの。」 「お客さん、それなら良い所がありますよ。」 「六甲山の中腹ですがそこからだと神戸が一望できる。」 「静かで空気も美味い。」 「昼食にも打って付の神戸牛のレストランもありますし。」 「ここからだと30分程度かな。」 「いいっ!そこ案内して。」 スーが笑みを浮かべて言った。 「了解!」 ドライバーはそう返すとアクセルを踏み込んだ・・・ 車は幾つかの角を曲がりながら坂道を登り始めて行く。 急な坂や緩やかな坂、狭い通りは対向車もなく 次第に緑に囲まれたドライブウェイを進んで行く。 コーナーを回りきる度に揺れを感じていたが次第にそれも収まり、車はまるで宙を浮いている様なスムーズな 動きに変わっていた。 あたりの景色は尚も美しさを増し、春の花々に埋め尽くされて行った。 景色に見とれ、吸い込まれるように私達は時間の感覚を失い始めていた。 「この景色は何度、見ても飽きません。」 「でもね。キャンディーズのライブはそれ以上に感動できる。」 ドライバーの唐突なその言葉に私達は彼の後ろ姿に釘付けとなった。 「あなたね。」 スーが言った。 「ごめんなさいね。 その帽子、こっちにもらうわよ。」 ランが手をかざすと手から放たれた光がドライバーの帽子を包み込み、こっちへと引き寄せた。 「到着しました。 ここが下界では天国と呼ばれている、私達の住む世界です。」 視界の果てまでも続く緑。 美しい花々はまるで星屑のようにあたり一面に咲き乱れている。 小鳥のさえずりですらハープの音色に聞こえるほど正に楽園の世界がそこにあった。 「どうです。美しいでしょう。」 「これは皆さんへのホンのご褒美です。」 「昨日のライブは本当に感激しました。」 「今晩も楽しみにしております。」 「ふふっ。」 「笑っちゃう。」 「ほんと、あなたって人は・・・」 「ごめんなさい。天使さんだったわね。」 帽子をはがされ、風になびく金髪を右手で軽く整え、ドライバーそっとくうなずいた。 「今、皆さんは解散を決意しようとしていますね。」 「だったら是非、この景色を目に焼き付けて おいて欲しいのです。」 「昨日の宿での会話を聞いていたわね。」 「いつも監視しているつもりはありませんでしたが・・・」 「昨日は特別です。」 「こうなるとは判っていましたが、直接3人の言葉を耳にしてやっぱりショックでした。」 天使はかすかにうつむき、手を目にやっていた。 そして、昨晩の記憶が頭をよぎる・・・ 京都の萎びた宿で3人は一時を過ごしていた。 宴も終え、落ち着きを取り戻し、夕涼みに興ずるなか、3人だけになった時、ランが呟いた・・・ 「もぅ、普通の生活がしたい。」 「みんなの様に買い物して、料理作って・・・」 「私は親孝行をしてあげたい。」 「そして普通に恋がしてみたい。」 スーもそっとうなずいた。 ※3人には誰にも言えない悩みがあった。 スターを憧れて入った音楽学園での生活。 苦しい時もみんなで励ましあい、支えあった。 そんな月日を数える度に、メンバーは次第に友情と言う深い絆で強く結ばれるよなっていた。 中でもメンバーの年長者であったマキは面倒見が良く、皆の頼れる存在だった。 あの3人の出会いのエピソードとされた奥多摩キャンプが学園のレクリエーションとして開催された時も マキを中心に楽しい一時が流れていた。 そんな折、学園長がスーを呼び止めていた。 「半年後にあなたをデビューさせるからね。」 突然の言葉にスーは戸惑った。 子供番組の脇役だったが、それを知ったマキは誰よりも自分の事のようにを祝福してくれた。 スーのデビューをきっかけにラン、そしてミキを加えた3人グループが度々結成されるようになった。 グループとしての正式な名は無かったがNHK紅白のメインダンサーや広告などにも学園は度々、 私達を起用するようになっていた。 そして、ついに運命の時が来る。 NHKから正式にマスコットガールとしてのレギュラー出演の要請が 届いたのだ。 3人にはグループ名を付け、将来的には歌手デビューも視野において欲しい。そんな 要望が付け加えられた。 私達は突然のチャンスに有頂天になっていた。 ランを中心にグループ名を勝手に考えたり、デビュー曲に思いも馳せていた。 そんな私達に学園の皆んなは、ささやかだが、思いのこもった「お祝いの会」を開いてくれた。 中心にいたのは勿論、マキだった。 のちにソロデビューを果たす裕美も私達の門出を祝福してくれた。 こんな事ってあるだろうか。 一緒に頑張って来たのに・・・私達だけ幸せを掴むのって・・・ マキとは特に親友の仲にあったミキは目一杯の涙を浮べていた。 「ありがとう。マキ。これからもずっと親友でいてよね。」 「何、言ってんのよ。」 「これまでも、そしてこれからも私達の友情は変わらないわよ。」 楽しかった仲間との別れ。 皆より先に何のとりえもない私たちがなぜ? 当時はまだお互い事を知り尽くすまでには至らなかった私達はグループとして3年間だけ がむしゃらに頑張ろうと誓いあった。 それが学園の仲間への恩返しになると信じていた・・・ [デビュー]と言うこの運命の時を期に、これまでの本当の親友との別れを余儀なくされた。 それにこれからは当たり前だった家族との平穏な日々ですら失われて行くだろう。 決して平坦ではなかったが私達は一歩ずつ階段を登り初めていた・・・ そして少しずつキャンディーズがスポットライトを浴び始めた最中、私達はマキの引退を耳にする。 記念すべきキャンディーズ紅白初出場のバックダンサーを勤め上げた夜の決断だった。 それこそ、私達の分身とも言える親友が選んだ決断だった。 その夜、ミキは張り裂けんばかりに泣き尽くした。 マキは一人、故郷への道に発ったと聞く。 「この道は行くあての無い道なのかしら。」 「気が付けば多くのスタッフやファンに支えられステージで歌い続ける私がいるわ。」 「不自然よね。 私達・・・」 「一つの道で成功することは誰もが羨むことなのに。」 「そうね。変よね。」 「どうしても普通の生活に戻りたい自分がいるの。」 「もぅ人形のような日々にはこりごり。」 「ならばやっぱり来年の更新はキャンセルすべきよ。」 自宅からも遠く離れた京の地の町並みや空気は次第に3人を温かく包み込んでいた・・・ 都会の喧騒や日々の激務からの開放感なのか、3人は冷静に自らの運命を探り初めていた。 「ねぇ。そう言えば、あの時、天使のヤツ 3人の願いを一つだけ叶えてくれるって言ってたよね。」 「どう。今、それをお願いしてみない。」 「私、本当の恋がしてみたい。 そして沢山の子供達に囲まれた平和な家庭を築きたい。」 「天使さん、どうか私の願いを聞き遂げて下さい。」 そう言うとミキは手を合わせ静かに目を閉じた・・・ 一瞬、ミキの体から光が放たれた。 「私は女優として自分を試してみたいの。 大女優なんかじゃ無く、脇役でも良い。」 「今よりもずっとマイペースにね。 そして幸せな結婚がしたいわ。」 ソファーに腰掛けながらスーはそう言うと目をつむった。 その瞬間、オレンジの光がスーを 包み込んだ。 「私ね、1年はやっぱりのんびり普通の女の子として過ごしたいの。」 「それからミュージカルをやってみたいの。」 「歌ったり人を感動を与えれるお芝居がしてみたいわ。」 ベランダから星空を眺めていたランがそう言うと、大きな流れ星が横切った。 「皆さん、食事の用意がてきましたよ。」 「ここの神戸牛は本当に美味しい。」 「3人が振り返ると、いつ用意されたのか緑の芝生の上には可愛いガーデンテーブルがセットされていた。 言われるままに私達はテーブルに着いた。 「ほんとう、時間を忘れてしまいそうな一時ね。」 「素晴らしい、プレゼントね!天使さん。」 「私もよ!本当にありがとう。」 「そう、言って頂けるだけで光栄です。」 「ここでは時間は進みません。」 「空気も風も全てが ただ穏やかに流れて行くだけです。」 「この景色を忘れないでいて下さい。」 「この先、どんな辛い事があっても私があなた達を救えるとは 約束できませんが、皆さんや皆さんの大切な方々と何時かはここで再会できるのです。」 「人生とは人として真っ当に生きるもの。」 「その普通な生き方こそが、本当はとても難しいものなのです。」 「あなた達はそれを願った。」 私はその願いを叶えます。」 「最後に一つ、ある事件を解決して下さればね。」 天使はそう言うと私達にウィンクをした。 |
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■本小説は全てフィクションです。 登場人物の一部、並び時代設定は過去に実在した状況に 酷似させ表現しておりますが全てが空想の物語です。 したがって実在の人物とは一切、関係 ありません。 また、本文は素人の一ファンが情熱だけをを持って製作した作品に付き、内容や 表現力の無さを本人が一番深く痛感しておりますので、ご理解しご一読下さりますよう宜しく お願い申し上げます。 |