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未知との遭遇 新たな決意 悪は近くにいる 悲しい勝利 決着 解散への決意


[プロローグ 未知との遭遇]

■あれは確か昭和51年(1976)10月11日の事でした。その日は私達にとって一生の思いでとなる
蔵前でのカーニバル2の日でしたから間違いありません。打ち上げを終え、私たちは家路に発とうと
していました。それぞれの方角が一緒だったので私たちは一台のハイヤーに乗り合わせ首都高に
入ったのです。 朝から気合が入っていたせいもあり3人ともウトウトと眠りかけていた時でした。

「皆さんお疲れですネ。」 「ゆっくりお休みになっていて下さい。」 「到着しましたら私の方から
声をかけますんで!」   
ベテランドライバーの気の利いた言葉に私たちはすっかり、リラックスしていました。
それからホンの数分が過ぎた頃でしょうか〜


「あれ〜?おかしいなぁ〜」 「運転手さんどうかしたの?」 ミキが眠たい目を擦りながら聞いた。
「いえネ、実はさっきからこのカーブどうも長いような気がして・・」 「こんな道、無かったバズなんで
すがね〜」 
確かにもう2分近くカーブを走っている、まるで螺旋(らせん)の渦に飲まれたように
車のヘッドライトはカーブの先だけを照らしていた・・・
「他の車も走ってないわ!?」 「見て!後ろにも誰もいない!」 スーは言葉を荒げて言う。
「ここ首都高じゃないわ!」 「運転手さん道、間違えたんじゃない!」
「そんなこと ありませんよ!」 「毎日通っている道ですよ!間違えるなんてありえません!」

■その時でした・・・一瞬、目の前が真っ白い光に照らされたのです。 ドライバーさんは慌てブレー
キを掛けたようですが私たちを乗せた車は見る見るうちに光の中に吸い込まれて行きました。
それから、どれだけ時間が過ぎたでしょうか。
気が付くと私たちは真っ白い光だけの空間に立ち尽くしていました。

「ここ天国じゃない?」  「私たちもしかしたら交通事故で死んじゃったの!」
ミキの言葉にスーは泣き出しそうな声で言った・・・
私もミキの言葉が正しいのかと思った。 頭のなかは今日あった蔵前のカーニバルで一杯に
なっていく・・・
[あんな素晴らしいカーニバルの後なのに・・・]
[まだ、ありがとうの言葉を伝えていないファンも一杯いるのに!]
[こんなとこでまだ死にたくない!]

「あれ?痛いよ?」ミキが自分のホッペをツネリながら、私たちを見た・・・
私も慌てて自分のホッペをツネってみた
[痛い!やっぱり夢じゃない!]
その時、一瞬 強い光が振り注いできたのです。

『驚かせたな〜ぁ!すまなかった!もぅ心配することはな〜い!』

 その声は突然、私たちの頭より遥かに高い〜そう・・・例えて言えば天からの声・・・えっ!
『今から、そこに行くからちよっと待っててくれ〜っ!』
そう言うと、空から一筋の光が私たちの足もとを照らしはじめたのです。


■彼は まばゆいばかりの光に包まれ天からゆっくりと私たちの前に下りて来たのです。

本当にビックリしました。目の前に『今』、起こっていることを理解することはとても不可能でした。
クリスチャンであるミキはひざま就き、両手を握りしめ・・神に祈りを捧げるているようでした。
臆病なスーは何度も自分のホッペをツネリ続けていました・・・
かれは私たちの前に立つとボリボリと頭をかきながらニャリと人懐っこい笑みを見せました。

『今日はお疲れ様。 コンサート良かったよ。』
「えっ? 見てたのですか。」
『あー見さしてもらった。』 『ノリノリで 久しぶりにいい汗かいたよ(笑)』
「あなた いったい誰なの?」  スーもホッペを赤く腫らしながら言った。
『あ〜そうだな、まだ名乗っていなかったな〜』

ボサボサに伸ばした金髪に無精ひげ、背は高いが痩せている〜見るからにふざけたアメリカ人の
ような彼は親しげに話し始めた。

『私は天上からこの地球を悪から救う使命を帯びやって来た。 しかし私たち天使は自らの手では
たとえ悪だと判っても手を降すことは許されん。だからその使命はこれまでも地球上にいる
協力者によって遂行されてきた。』
『しかしその協力者は先月に引退したいと言ってきた・・』
『だから新しいパートナーを探す必要があってなぁ〜』 (ふぅ〜)

天使のクセに溜め息をついてきた・・・  「だから私達にどうして欲しいの?」
今までのこともあったので私はハッキリとした答えが欲しかった。

『ウん。 実は次の協力者に、君たち[キャンディーズ]がなって欲しい・・・イヤ!なってくれ!』
『今日のコンサートを見て、君たちしかいないと確信したんだ!』

「どうして私たちでなければいけないのですか?」

『悪に立ち向かうには3人の強い友情がいる。』 『それに何より(人を思い、悪を憎む)正義感が
必要なんだ!』  『君達はそのどちらも兼ね備えた選ばれし者たちなんだ!』
『頼む!』 『もぅ今の私には君達しか見えない!』 『お願いだ!このとおり!』

すると天使は私たちの前で土下座をしてみせた。 と言っても宙に浮いたままなので私たちは
相変らず彼を見上げていたのだが・・・

「私 なってもいい。協力するよ。」 「だから天使さん 頭をあげて・・」

「一度は死んだと思ったんだから 私も協力する!」 「ねっ!ランもやるよね!」

これも運命かと思った。 キャンディーズになってから3年目。普通の女の子なら経験できない
ことを私たちはこの3年間で一杯経験してきた。 その集大成がこの奇跡なら、それも[アリ]って
思えてきた。   「分かった。」 「みんながそう言うんだから反対なんてできない。」
「天使さん 協力するよ。」

■それからは私たちは沢山の話をした・・・『どうやって悪と闘うの』とか、『天使はどこまで
協力できるの』  『休みはあるの』とか・・・
時を忘れるほどに 話し込んだ・・・ そして ついには眠り込んでいた・・・



[新たな決意]


■目が覚めると私は自分のベットにいた。 [やっぱり夢だったんだ・・・]
でも それ以上の記憶がない。 どうやって帰ったのだろうか? 大里さんのおごりで飲んだ
ワインのせいかな。 やっぱり昨日は少し呑みすぎたみたい。

今日は一週間ぶりのオフ日だったから 私はそのままベットに潜り込んだままだった。
[でも不思議なほどハッキリと思い出せる。] [天使の(*^_^*)や話の一言一言・・・]
「でもやっぱり信じれっこないよ!」 私は再びはフトンに潜り込んだ。

■マキねえさんの声で私は目を覚ました。 [あれ・・夢を見ていたのかしら?]
[でも ステキな夢だったわ・・・だって天使さんに遭えたもの・・・]

「ミキ!早くニンジン買ってきて!」 姉のかん高い声が再び廊下に響いた・・・


■[この紋所が目に入らぬか!] ハッ! 自分自身の寝言で目が覚めた・・・
どうやら自分の部屋のようだ・・・天使はきっと[どこでもドア]を持っていて、私たちを自分の
部屋へ送り届けたのだろう。 
 [フッフッフ・・・来るなら来い。 悪は私が成敗してみせる。]
そう言うとスーは再び眠りに入って行った・・・寝る子は良く育つと教えられていたからだ・・・

■10時を目前に私はようやくベットを後にした・・・ 母が朝食を用意してくれていたようだが
冷めた目玉焼きが痛々しい。
やはり昨日のことが気になり私は受話器を取っていた・・・
3コールでミキの声が聞こえた。
「ミキ!私! 昨日のこと、何か憶えている。」
「うん。私も気になってた。」 「ランも一緒ネ。」 「今からスーの所で集らない?」

心のなかの不安が的中していた。 キャンディーズを結成したころ、私たちは何が何でも
3年間はがむしゃらになろうと誓い合った。 その3年目にこんな運命的な出来事が起こる
なんて? 
[やっぱり運命なの?]年長者としてキャンディーズの支えとなっていたランだが
この時ばかりは二人にこれ以上の無理を押し通せないと実感していた・・・

■昼前には田中屋釣具店に到着していた。 昼食は出前で済ませることにした。
3人は早々に2階、奥に有るスーの部屋へ去っていった。     部屋はキャンのグッツで
埋め尽くされていた。 デビュー当時のポスターが真正面に一際目立っていた・・・

「私から話していい?」 「昨日の帰り道、高速で天使にあったの。」 「天使の奴、私達に
世界平和のために戦えって・・・」  「それで、私・・・いても立ってもおれず・・まかしてって
いっちゃった〜」
 スーの言葉に嘘はなかった。  3人のなかではいつも無邪気で、ツッコまれてもいつも
笑ってごまかして来たスーだったが、今日ばかりは真顔で話してきた。
そして、昨日の出来事が夢ではないと言うことがこれでハッキリした。

「私、一度でいいからなりたかったの・・・」
「何に?」
「ヒーローよ!」 「子供の頃、近所の男の子たちとよく一緒に遊んだわ〜」 「でも私、
女だったか、いつも助けられる役だったなの〜だからね・・・」 

スーは熱く語り続けた。スーの話を聞いてると 何だか悩んでいた自分がバカバカしく
なって来た。 昨日のことが真実ならそれでいい。
天使が私たちの前に突然現れて来て、私たち「キャンディーズ」にヒーローになってくれって
土下座をしてきた・・・あの時のミキの顔、まるで憧れの人の前にいるみたいで目をうるうる
させていた。 そして、今のスー・・・まるで子供みたい。 初めて出会った頃を思いだすわ。

私たちにとって[キャンディーズ]はいつも最高の舞台だった。[キャンディーズ]だと言う
自覚がいつも私を奮い立たせ、勇気をくれた。 今度は[キャンディーズ]が地球を救う。
そして皆に勇気を与える。 スーの言う通りだと思った。 何だかリーダーぶっていた自分が
恥かしくなって来た。
[みんな今を真剣に考えている。][3人揃ってキャンディーズなんだ!]

私たちは昨晩の記憶をもう一度辿ることにした。3人には悪と闘うために超能力を授けたと
天使は言った。スーには予知能力、ミキにはテレポテーション、そして私にはサイコキネス。
どの能力も危険が迫った時に初めて覚醒するらしい。だから普段は自由に使えない。

また天使は悪についても説いてくれた。 事件や事故は時に、その者の運命であったりする。
本当に恐ろしいのは実は平凡なはずの人生で出くわす些細な試練に耐え切れず、妬みや
恐れに自己を見失い、人としての道をはすず事だと。
そこに悪魔はつけ込み、人としての自制心を失わせ深く人生に関っていく。
そう言われて見れば確かに、社会には不思議な事件が多すぎる。 犯人が逮捕されても
人々の心に深にキズを残し、新たな模倣犯を産んでいく。 犯人もまた牢獄のなかで
自らの悪と闘わなければならない。 被害者の家族、加害者の家族・・・社会全体が
恐怖に怯える・・・

休暇はないそうだ。 もちろんギャラもない。 ただ最後には夢を叶えてあげるといって
くれた。願いごとは一人に一つだけ・・・

辞めたい時は辞めてもいいと言ってくれた。 ここだけは渡辺プロも見習って欲しい・・・

天使に遭いたい時は彼の気分しだいだと反された。 ただコンサートには行くといっている。

「結論は出たみたいね!」 ミキの声が力強かった。
「天使は私たち3人の友情を信じてくれたのよ。」 「これからはキャンディーズとして
悪と闘うのよ!」 と言うと十字を切ってみせた。(やっぱり絵になっている)

日も暮れ始めていた。
新たな使命を受け、3年と言う区切りのはずだった[キャンディーズ]は新たな一歩を選択
していた。 それは彼女達自らが選んだ初めての一歩だった。

影で聞き耳を立てていた天使は一人こっそりと呟いた・・・
『これでもう少し、キャンディーズを見ていられるな〜』




[ミッション 悪は近くにいる。]


■10月末から11月始めにかけて、私たちは群馬・千葉・静岡・埼玉でコンサートを行った。
どこの会場にも沢山のファンが来てくれた。 新曲(哀愁のシンフォニー)の発売日も決まり
私たちはキャンディーズとして忙しい日々を送っていた。

そんな中、私たちは歌番組の収録のためテレビ局に入っていた。 舞台では私たちのバックを
盛り上げてくれる[スクールメイツ]の面々が稽古をしていた。昔は私たちもやったスタンドイン
(リハーサル時におけるスターの代役)を今は若手が勤めてくれている。

私たちに気付くと3人は急いで駆け寄り、マイクを手渡しに来てくれた・・・
「ラン先輩、おはようございます。 今日も頑張って下さい。」
「ありがとう。今日も宜しくね。」

「ミキ先輩、おはようございます。 コンサートお疲れ様でした。」
「ハイ!ありがとう。 歌、だいぶいい調子ね。これからも頑張ってね。」

「スー先輩、おはようございます。 今日も宜しくお願いします。」
「ありが・・・とう・・・」

彼女からマイクを手渡された時、 一瞬 彼女の手に触れたスーの顔色が変わった。
脳裏の中を沢山の映像がフラッシュバックして行く。 断末魔や笑い声、車のクラクション等が
耳に響いてくる。 スーは一瞬その場に立ち尽くしてしまった。
★ついに彼女の能力が覚醒した。

「スーどうしたの?」
「ご免。大丈夫よ。」

ミキの声で正気にもどったスーと私たちはどうにか無事、収録を終えることができた。



先輩歌手に挨拶を済ませると私たちは足早に楽屋へと向かっていた。
楽屋に入るとスーがいきなり話をきり出した。
「その時が来たみたいよ。」 「リハーサルの時に、私の能力が強く反応したの。」
「私のスタンドインを担当してくれているケイコって子。何か大きなトラブルに巻き込まれて
いるわ。」 「ほっといたら彼女、取り返しが付かなくなるよ。」


ケイコ 18歳 出身は埼玉県 16歳の時に上京し東京音楽学院 研究科生になる。
来年、春にはソロデビューが予定されている。

テレビ局を後にしたケイコはメイツと別れ赤坂へと向かっていた。
デビュー曲、作成のため作曲家の仲俊夫の音楽事務所へ向かうためだ。
しかし、ケイコの足取りは重く鈍かった。 3ヶ月前は喜び勇んでいたはずなのに・・・

数々のヒットを連発する仲にケイコを託した事務所の期待はとても大きい。それはケイコも
同じだった。 だからケイコは厳しいと言われた、仲のレッスンに必死に着いて行った・・・

夕方の6時を回ったころには日もすっかり沈み込み、あたりはネオンの明かりに照らされていた。
ケイコは事務所のインターフォンを押した。
「ケイコか。遅かったじゃないか。 入りたまえ・・」
ドアのロックが解除された。 ケイコは笑顔を作りドアを開けた。

■どうやら現段階では その能力を覚醒しているのはスーだけのようだ。
スーはあの接触から僅かづつだがケイコの心の動きを感じ取れている。 

「ケイコの精神状態は今が一番、乱れている・・・」 「不安で一杯みたい・・・」

「ケイコ今、何してるのかしら?」 「私、事務所に確認してみるわ。」
そう言うとミキは受話器をとり始めた・・・
「今日は仲先生の事務所でレッスンを受けているそうよ。」


「ケイコ・・・これまで苦労掛けたが、喜んでくれ。お前の初舞台が決まりそうだ・・・」
「仲先生!本当ですか?」 「わたし、嬉しい!」 「本当にありがとうございました。」
「頑張れよ、テレビだぞ・・・」 「それも、そこいらの安っぽい番組とは違う・・・」
「太陽テレビの【ヒット・ステージ】だ・・・そこでお前をデビューさせる。」

※太陽テレビのヒット・ステージと言えば当時、毎週水曜日の8時、ゴールデンタイムにおいて
10年以上に渡り平均視聴率20%以上を維持している怪物番組であった。
多くの歌手がそのステージに憧れ、ヒットはここから生まれるとも言われた。そのため番組プロデューサーの
権力も増大し、出演交渉は音楽事務所にとっても腕の見せ所とまで言われた。それら収賄行為は司会者にも
及び、ステージ裏では先輩歌手による若手アイドルへのイジメなど権力が支配する悪の巣窟と化していた。


「だからケイコ、これが本当に最後だ、もう一肌脱いでもらいたい・・・」
その言葉を耳にしケイコは唇を噛み締めながらゆっくりとうなずいた・・・

「今晩の11時、シャトーホテルで太陽テレビの山田プロデューサーと会うことになっている。」
「ドレスは用意しておいた・・・」 「これで俺たちは栄光の階段のキップを手に入たのも同然だ。」
そう言うと仲はドレスの入った包みをケイコに手渡した・・・

その頃、キャンディーズの3人は赤坂へ向けタクシーを走らせていた・・・
「スー、今も何か感じる?」 ミキが聞く・・・

「彼女、何かを決断したわ。 それは絶対にしてはいけないこと・・・」
「彼女、それが悪いことだって知っている。」
[今の段階ではスーの能力しか手掛かりがない・・・]  [どうかして証拠を掴まないと・・・]

ランが一人、思案をめぐらせてい頃、タクシーは仲音楽事務所に到着していた。

「いい!まずは探りを入れてみましょう。うかつな発言や行動はなしよ!」
「スー、私達が時間を稼いでいるあいだパワー全開よ!」
3人は互いを見つめ、うなずくとインターフォンを押した・・・

≪≪ピンポーン♪≫≫


「誰なんだ?今頃・・・」 ソファーから腰を上げた仲はやっくりとドアに向かった。
「どちら様ですか?」

「遅くにすみません。伊藤です。」 「キャンディーズの伊藤蘭です。」
「伊藤 蘭・・・ランちゃん?どうして君が今頃?」
「私だけじゃありません。ミキもスーも一緒です。」

「キャンディーズの3人がお揃いとわ!これは凄い!サァ中に入ってくれたまえ・・・」

仲俊夫は笑顔で3人を迎え入れた。

黒を基調にしたシックなスペース。ユッタリとしたソファーが囲む中央にはグランドピアノが静かに
置かれている。 窓から見える赤坂の夜景が美しい・・・その前にケイコが包みを下げ立っている。
3人を見るとケイコは深く礼をした。

「先輩お疲れ様です。」ケイコは屈託のない笑顔を見せた。

「こんな遅くにどうしたんだ? 何が相談事でもあるのか?」
「外は寒かっただろう。まぁそこのソフアーにでも腰をかけてくれ。今、熱いコーヒーでも入れさせるから・・」
「オイ!ケイコ君、お願いするよ。」
「ハイ。先生。」 部屋の反対側にあるバーカウンターを設備したキッチンへとケイコは姿を消した。

「ゆっくりして行ってくれと言いたいが今日はこの後、番組プロデューと打合せがあるので手短に頼むよ。」
「番組ってケイコちゃんのことですか?」
「そうだよ。スーちゃん、勘が良くなったネェ〜?」
「これからのアイドルはチャンスを待つのではなく、掴みに行くべきなんだ!」 「どんな手段を使ってもね〜」
「お待たせしました。コーヒーです。」 「皆さん砂糖は一つで良かったですよね。」
「ケイコちゃん、ありがとう。 憶えてくれていたのね。」ミキが笑顔で返した・・・

「えぇ!キャンディーズの皆さんは私達の憧れです。」 『どんなに辛くても頑張ればキャンディーズのような
立派なスターになれる!』これがメイツ皆んなの心の支えですから。」

「曲の方も順調のようですね。」
 ランが聞く・・・
「あぁ、今度はデビュー曲からヒット間違いなしさ。 作詞はあのヒットメーカーの柿捨尾(かきすてお)だぞ!」
「根回しも上手く行っている。」 「言っちゃ〜何だが君たちもウカウカしているとケイコに追い越されてしまう
ぞ!ハハハハ・・・」  「おっと、もうこんな時間だ。 君たち、悪いがこれで勘弁してくれないか。」
「ケイコ!準備しといてくれ!」

「じゃ、先輩。私、支度しないと・・・」 「でも安心して下さい。私が皆さんを越えることは所詮、叶わぬ夢と
諦めていますから・・・」
 そう言うとケイコは包みを下げ部屋を後にして行った・・・


「本当に突然おじゃましてスミマセン。」 「ケイコは私達にとって妹みたいなものだから、つい心配に
なっちゃって。」 「じゃケイコのこと、宜しくお願いします。」

3人は頭を下げた。 そして事務所を後にした・・・

「ケイコちゃんのあのセリフ、何か深い意味があるようね。」
「ミキも思う!私もよ。」 「デビューを間近にしているとは思えない。」
何かを捨てたようなセリフね。」 「スーどうだった?」
「全てがはっきりしたわ。 もう彼女を救うには今日が最後のチャンスよ!」

天使から授かったスーの予知能力は対象者に接すれば接するほど、感度を上げて行く。
時には本人と同化し、過去の記憶すら読み取ることが出来るのだ。

「仲俊夫は新人ヒットメーカーとしてのプレッシャーに押し潰されそうなの。 そこへ事務所からのケイコの
話・・・もう、限界にあった彼は使ってはいけない手を使った・・・」
「アドバイスしたのはヒット・ステージの司会者N。」 「メイツの頃からケイコに目を着けていたみたい。」
「Nはケイコをタップリもて遊んだ後、山田プロデューサーに紹介した。」 「今日がその日よ!」

あまりにも衝撃的な内容に3人は言葉を見失った・・・
この業界に生き、『良くあること』とは耳にしていたが、それが可愛い妹のようなケイコの身に起ころうとは
夢にも思わなかった。 3人もデビューしたての頃はヒットに恵まれず甘い誘惑に負けそうになったことが
ある。しかし、その度NHKの児玉ディレクターや
ドリフの長さんがいつも厳しく、そして温かく支えてくれた。
『どんなに辛くても私たちは歌手として成功しよう。』 何よりは3人と言う心強い仲間がいた・・・

「2人が来るわ!タクシーを止めて。」
スーに言われ、慌ててランがタクシーを呼び止めると3人は足早に乗り込んだ。

時、同じくして仲とケイコが玄関に現れた。 ケイコは真っ赤なドレスに毛皮のコートを身に着けている。
仲がタクシーを呼び止めるとケイコはおもむろにバックラからサングラスを取り出した・・・

「運転手さん、前のタクシー追って下さい。」

ミキの声がドライバーを急き立てる。

あたりは時を忘れさせるほどまばゆいネオンが照らしている。 行きかう人々も吸い寄せあうように
ネオンの砦へと埋もれて行く・・・  空からは白い雪が舞い始めていた。
3人の吐く息が次第に車窓を曇らせて行く・・・




[悲しい勝利]

「3人のおかげで予定が遅れてしまった。」 「運転手さん急いでくれたまえ。」
2人を乗せたタクシーはスピードを上げた。
「ケイコ・・・お前が辛いのは良く分かる。 だが、お前の成功は俺にとっても夢なんだ・・・」
「ハイ。先生分かっています。」

「フリーになる前は俺も夢だけで仕事をしていた。だがな、どんなに歌い手やファンが素晴らしい
曲だと認めてくれてもシングルにならなきゃダメなんだ。」
「欲を言えばそれもスターのシングルがいい・・・」 「俺にはその才能があった!」
「このままじゃ、本当に俺は埋めれてしまう・・・」 「夢だけじゃ食えないのがこの世界なんだ。」
「そして俺はフリーになった。」 「しかし、本当の地獄を味わったのはそれからだったよ・・・」

「運転手さん、前の車がスピードを上げたようよ!離されないでね。」
「でも、仲さんのような人が何故こんなことしでかしたのかしら?」 「私には理解できないわ。」

「私の推測だけど、今の音楽業界が彼を変えたのかも知れない・・・」
「フリーになってからの仲さんには事務所も非情だったわ。」 「これまで受け持っていた歌手の
楽曲スタッフから全て外され、回ってくるのは新人ばかり・・・」 「運良く発売されてもシングルの
B面止まり。」 「才能があるだけに本当に悔しかったと思う・・・」

「そして3年後、アルバムに収められたいた1曲がファンの支持でシングルカット。それが彼に
とっての初のミリオン。一躍、新人ヒットメーカーと呼ばれ、時の人・・・」

「なのに事務所は又、彼に新人を託した・・・」 「それって仲敏男を潰すためだったの?」

「そう、だからケイコのヒットは事務所に対して自分の実力を見せ付ける最高のチャンスって
ことになるわね。」
 「そうね・・・」

「ついたわ。 これからはラン・ミキ!2人の出番よ!」

「分かってる。」 「まずは私からのようね。」

仲とケイコはホテルの中へと入って行く。 ケイコはロビーのソファーに腰掛けた。
仲は一人フロントへ行く。少し話した後、受話器を手にした。電話の相手はホテルの最上階に
部屋をとっていた。 ソファーのケイコを迎えに行くと2人はエレベーターに乗り込んだ。

部屋のチャイムが鳴った。
男はバスローブを整え葉巻を灰皿へと押し込む・・・

「遅かったじゃないか。仲クン」
「すみません。突然の客が来てしまって・・・」
「まぉそんなことはどうでもいい。」 
「それよりも今ちょうどルームサービスのワインが到着した所だ、さぁ折角だから一杯やろう!」

「恐縮です。じゃケイコ君、入れていただこうか。」
「ハイ。失礼します。」


「そうだ!今日はケイコ君にも、いい知らせがあるぞ。」
「来年の2月、第2週に君の【ヒット・ステージ】への出演が決まったぞ。」
「山田さんありがとうございます。」
「それだけじゃないぞ!内の後輩にも声を掛けてやっといたよ。」 「近いうちにCMの話も来るかも
知れんぞ!ハハハハ・・・ まぁまずは前祝いと行こうか!」
「ケイコ・・・ワインだ・・・山田先生にワインを差し上げて・・・」


その頃、3人はと言うと最上階の女子トイレの一室に潜んでいた・・・

「どう、スー? 何が起こっているか分かる?」
「だめだわ。あの子、今必死で感情を殺しているの・・・」
「もぅ!どうしたらいいのゥ〜」
「私も、さっきからテレポート(瞬間移動)を試しているけどダメだわ!」
「自分の意志だけでは能力を発揮できないのかも・・・」

「いけない!誰か入って来たわ!」

とっさの判断でレバーを下ろし、水の音で気配を消すことが精一杯の3人でした・・・


「仲くんも彼女がヒット街道をばく進してくれれば君の名も育ての親として名を残すことだろうね。」
「大丈夫だ!」 「今は大船に乗ったつもりで彼女を私に託してみなさい。」
「きっと悪いようにはせんから。ファッハハハハハ・・・」
「山田さん、宜しくお願いします。」 「彼女には実力があります。」 「ただ、今足りないのは運だけです。」
「大御所ばかりのナベプロに任していたら彼女へのチャンスは数年先になってしまう。」
「彼女にも、私にもナベプロを見返すには今しかないとハッキリ分かっています。」
「君も野心家だなぁ〜。」 「たが、君の説にも一理はある。」 「確かにあそこは大所帯だ、上も
多すぎるしなぁ〜」 「ルミ子も未だにアイドルの席を若手に譲る気は無いようだしな〜」
「山田さん、もぅ遅くなりましたので私はここで失礼します。」  「ケイコのこと、宜しくお願いします。」

仲は深々と頭を下げた。 山田はそこへウィンクをし、Vサインで返した。
指に挟まれた葉巻の煙が鼻についたが、仲は煙たい顔も見せず静かに扉を閉じた・・・

[これでいい・・・]  [彼女はこれでスターの道が約束されたのだから・・・]

仲は心の中の自分に言い聞かせていた。  司会者Nの時もそうだった・・・それでも自分を許す気には
なれなかった。  ふと3人の顔が浮かんだ・・・【キャンディーズ】 あの3人の楽曲を手掛けるのが仲の
夢だったからだ。 夢は叶わなかった・・・ 先のミリオンヒットも3人への思いが成功を導いてくれたの
かも知れない・・・仲がふと、振り返った先に、その3人がいた。


「ケイコをどうしたの!」 「ケイコに何をしたの!」

ランの強い口調が仲を急き立てた。 たじろう仲はその場で腰を抜かしたようで床に崩れ落ちた・・・
「中だ!」 「この部屋の中にいる!」 「助けてやってくれ!」 

そう言い終えると仲は床に顔を埋め堪え切れず涙を流した。
3人は力一杯ドアを叩いた・・・


[仲の馬鹿野郎!これからって言う時に・・・]
「何だ!仲か!お前との用はもう済んだハズだがー!」

部屋のロックが外された一瞬、スーが体当たりで室内へと突入した。
ドーン!床に転ぶスー、続いてラン、ミキが突進する。 ミキはすかさずケイコの元へと立ち寄った・・・

「こんなやり方は間違っているわ!」 「ケイコ!もっと自分を大事にしなさい!」

「藤村先輩!私、わたし・・・本当にごめんなさい・・・」
そう言うとケイコは美樹の胸に顔を埋めた。 そしてミキはそれを強く受け止めた。

「何んだ君達わ! んっ?」 「キャンディーズか?」 「どうして君達がここに・・・」
「貴様ら、ワシの部屋に、失礼じゃないか!」

「何よ!あんたこそ!ケイコをどうする気だったの!」 「こっちは全てお見通しよ!」
「貴様!所詮アイドルの分際でー!」
啖呵を切るスーめがけて山田の拳が振り落とされた・・・
「危ないスー!」
その時、ミキの体が一瞬にして消えていた。ミキに抱き止められていたケイコも支えを失ったようで
床に倒れこんでいた。次の瞬間、ミキはスーの前に立ちはだかり両手を広げていた・・・
山田は一瞬、標的を見失ってはいたが振り落とされた拳はスーをかばうために立ちはだかる
ミキへと放たれた・・・
ガツーーン!
山田の拳はミキの左目あたりを直撃した。  痛さが全身を走る・・・
ミキはその場にうずくまった。
 「す・ま・ない・・・こんなことをする気はなかったんだ。」
山田は自らのしでかしことに愕然とした。

「あんた!何ってことするのよ!」
怒りを爆発させたランは両手を突き出した、その手の先から光が放たれると光は側に置かれた
60センチ大のビーナス彫像を包み込んだ。

「いったい何が起こっているんだ・・・」

「夢でも見てな!このエロおやじ!」

ランが腕の向きを変えるとビーナスは宙を舞った、そして大きな弧を描くとビーナスは山田の
肩口へとぶち当たった。 ドーン!床に崩れ落ちた山田は意識を失っていた・・・・


[つづきを読む]


■本小説は全てフィクションです。 登場人物の一部、並び時代設定は過去に実在した状況に
酷似させ表現しておりますが全てが空想の物語です。 したがって実在の人物とは一切、関係
ありません。 また、本文は素人の一ファンが情熱だけをを持って製作した作品に付き、内容や
表現力の無さを本人が一番深く痛感しておりますので、ご理解しご一読下さりますよう宜しく
お願い申し上げます。