(前回までのあらすじ)
デビューから4年の月日が過ぎようとしていた。 着々とスターダムを登り続けて行く3人だったが
青春時代の思い出が交差し、しだいに個々の夢に目覚め初めて行く。
ツアー遠征先の京都の宿で3人はついに解散を決意。 「一つだけ願いを聞き遂げてやる。」
と、言った天使に3人はついにその願いを伝えてしまう・・・

第1章 第2章 第3章 第4章 第5章 第6章 第7章 第8章
未知との遭遇 新たな決意 悪は近くにいる 悲しい勝利 決着 解散への決意



[そして行動]

東京に帰ると、3人はまず家族に思いを告げた。
なかなか理解はしてもらえなかった。 思った通りかも知れない。
誰の目からも[これから]と、言う時に・・・
「どうしたのケンカでもしたの。」  「この所、休んでないから疲れが溜まってっているのよ。」
「もっと将来のことを考えなさい。」 「人生はこれからなのよ。」


「お母さん何て、全く私の言うことを信じてくれないのよ。」 「ホント情けなくなったわ。」

久しぶりのオフの日、私達はスーの自宅に集り、互いの経緯を話し合った。
スーは階下の母に聞こえんばかりの声を荒立て、私達の聞かせた。

「しかたないよ。」
病弱の母を持つミキだけは家族に心配を掛けられず兄に打ち明けただけのようだ。

「どうかな。今度の5月のツアーが終わったら社長に面会を申し込まない。」
「直談判ね。」

「そう、それがダメだったら内容証明郵便を送りつけて私達の決意を伝えるの。」
「5月のツアー明けだと6月ね。」 「契約更改は9月だから充分かもね。」
「昨年のようにズルズル引き伸ばされないようにするためにも社長に直談判するのよ。」

「そうね。それがいいと思う。」
 


それからもキャンディーズの勢いは留まることを知らなかった。
「みごろ〜」では3人を主人公に置いたドラマがスタートした。NHKでも音楽番組の準司会に
3人が抜擢された。 続いて発売されたアルバムには3人の自作曲が織り込まれ、アーティストと
しての評価も高まって行った。

「お疲れ様〜っ!」
テレビの収録を終え、スタジオを後にしようした時。 懐かしい顔の作曲家が私達に声を掛けてきた。
いや〜久しぶり。」 「最近、頑張ってるな。」 「しかし昨年の大衆賞は残念だったね。」
「でも気にしないで。」 「あれで良かったと思うよ。」 「じゃ、お疲れっ!」

「お疲れ様です。」


その作詞家は羽鳥夫(ハトリオット)、作曲家協会の理事であり、多くのヒットを世に送り出した
重鎮である。 彼が言う[大衆賞]とは恒例となった年末の[音楽大賞]のタイトルで、私達は
昨年、そこで[大衆賞]に初めてノミネートされていた。 結局、その年の大衆賞は御三家と言わ
れた一人が受賞している。

「羽鳥さんって、いつ逢ってもパワフルね。」 「ホント元気よね。」
「うん。でもちよっと心配だな〜。」 「どうしたのスー、何か感じたの?」

「ううん。あの人はいたっていつも通りなの。」 「ただね、何か感じるのよね。」





[最後の戦い エピソード1]

「いや〜見事な追い上げだったな。」 「前半の流れからすれば内が捕って当たり前なんですが、
まさか、あんな”おちゃらけソング”がミリオンヒットとなるとはね〜ホント焦りましたよ。」

「はっははは・・・ だがなアレをバカにするんじゃないぞ。」 「これからは”ああ言う歌”がヒットに
繋がるのか知れないな。」 男は組んだ足を返し、葉巻に火を点けた。

「それに、あの歌で我が社のライバル局は巨万の富を手にしている。」
「今回の苦労は並大抵ではなかったんだぞ。」 「判っているのか。」

「桑原さん、勿論ですよ。」 「局長のお力添えには常々感謝しております。」
「これからも宜しくお願い致します。」

 外国ブラントのスーツを着こなし、人工的な焼色を施した肌からは白い歯がやけに眩しく映った。
そして男は胸ポケットへ手をやると、ぶ厚い封筒を取り出した。

「お代官様・・・・」
「おいおい!それはよしてくれ。 そのセリフは我が社の看板番組のキメセリフじゃないか。」

「ふっふはははは・・・・・!」
「大丈夫ですよ。」 「ドラマでは”この紋所が−!”って、なりますがね。」
「ここにはそんなバカはいませんよ。」

「それは言えてるな。」  桑原は分厚い封筒を受け取ると中味に目をやることもなく
ソファーに置いていたバックに押し込んだ。

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エレベーターを降りると羽鳥は二月に一度開催される作曲家協会の理事会に向っていた。
少し酔いもあり、今日はあまり発言を控えようと彼は自分自身に誓っていた。

各委員から報告がなされ、理事会も終わりに差し掛かった頃、一人の委員が理事長である
山口に食って掛かった・・・

「何度も言うがあの[音楽大賞]の結果はどうも納得がいかん。」
「ひつこいな〜君も・・・」 「その話はもぅ何度も話しているじゃないか。」

「その説明に納得行かないから私はこうやって議題に取り上げているんだ。」
「確かに前半だけなら”あれ”が捕って当然だと、私も思っていたが一年を通して見れば
数字の上でも”おいらが鯛焼き君”が文句なしの大賞だよ。」
「いや、せめて大衆賞は受賞させるべきだった!」

「世間はこの一件を不自然に思っている。」 「音楽大賞の権威もこれで終わりだ。」

初老に差し掛かった山本は白くなった無精ひげをかきむしりながらうつむいた。

「何かある。 何処かからの圧力がきっとあったはずだ。」
「私はこれからも糾弾し、続けるからな!」

[このバカが。 年寄りだと思って理事に置いてやったが分からず屋にもほどがある。]
山口は不快そうな顔を浮かべながらも無言を通した。

会場は一時、ざわつきはしたが誰も山本の言葉に賛同はしなかった。
羽鳥もその一人だった。

理事会が終了し、会場を後にした山本に羽鳥は声を掛けていた。
何の脈略もなかったが、山本の悲しい後ろを見た瞬間、羽鳥はほって置く訳に行かなかった。
羽鳥はそう言う男である。

「山本さん、どうです。一杯付き合ってくれませんか。」
「どうしたんだ。羽鳥、君も理事長に付いて行くんだろ。」
「彼に付いて行けば銀座でもてなしてもらえるぞ!」
「荒れてるなぁ〜、でもね山本さん、オレ銀座には興味ないんですよ。」
「あそこって”成り上がった男ども”の墓場なんですよね。」
「上手く言うな。」 「よし、わしの行きつけに行くか?」
「おかみもババァだけがアテは最高の店がある。」 「そこ、つれてってやるわ。」

そう言うと山本の足取りが僅かだが早くなった。 羽鳥は大きな背を少し折り曲げ
山本に笑顔で返した。  「いいですね。」 「じゃ今日は山本さんのおごりですよ。」

山本が活躍したのは40年代初頭、多くは演歌で人の心に訴えるものだった。
実力がありながらも限られた歌手にしか楽曲を提供しないのも頑固な山本のスタイルと
されていた。

「ハバァ!お銚子だぁ〜っ!」 「山本さん、もぅ私は一杯だ。 勘弁して下さい。」
「バカ野朗! もっと付き合え!」 「お前が誘ったんだぞ・・・」
そう言うと山本はおちょこをカウンターに落とし眠り始めた。

「羽鳥さん、ありがとう。」 「こんな楽しそうな先生見たの久しぶりよ。」
「えっ?こっちこそ今日は私は楽しませて頂きました。ご馳走様。」
40過ぎだろうか、品のある顔立ちと落ち着きから、そうも見えるが、30代だと言われても
信じてしまいそうな 女将はそんな人だった。

「この所、先生何かを調べるのにやっきになっているわ。」
「先日もここに探偵を呼びつけ調査させていたの。」

「もしかして”音楽大賞”の一件?」
「詳しくは判らないけど、そうみたい。」

「音楽大賞はな。当初は作曲家協会がその一年の楽曲の中から優れた作品を公平に
評価するために私達が作ったんだ。」
山本はカウンターに顔を埋ずめながら、小声で話し始めた。
「起きてたのですね。先生。」 「はい!お水」

「すまない。」 「しかし、TTSテレビが後援に付き初めてから様相が変わってきた。」
「当初はしがない祭典だったんだ。」 「ところが今じゃ紅白に並ぶほどになって行った。」
「俺も最初は嬉しかったがよ。だがな、今はどうもデキレースの臭いがするんだ。」

「デキレース?」
「判らないのか?」 「今の音楽業界は昔の興行世界とは違う。」 「商業の時代なんだよ。」
「力のある者だけが更に力を付け、弱い者を踏みにじって肥やしにする世界なんだよ。」

「いまじゃ、どんなに実力があっても、どんなに素晴らしい作品を作ってもTVに出なければ
成功はない。」 「音楽大賞はその最たる、悪の根源になってしまった。」
「そこには利権が渦巻き、大会の初心など、もぅ過去のモノなんだ。」

日本は戦後、10年程で急激な高度成長期を迎えた。 その後、オイルシヨック等、所得格差が
一部、表面化はしたがTVメディアが成長すると、人々は娯楽の大衆化に酔いしれ、次第に
社会も[国民的中流意識]に以降することで若者達や労働者の反発を消し去ることに成功した。
更に音楽業界も当初は興行が主で、地方の権力者が興行主となり利権をむさぼってていたが
商業の時代に入るとレコード売上や印税等の収益が増大し、地方興行の比重は低迷の一途を
辿っていた。
媒体としてのTVは膨らみ続ける広告収入から出演者の知名度によって価格設定を変更。
歌手にとっては紅白出演、音楽大賞受賞が大きな基準知とされた。
一度設定された出演料は二度と下がることがない。 これもTV界の暗黙の了解にあったため
歌手はおろか、事務所サイドもこの年末レースに全力を注いでいた。

「先生が怪しいと思ったのはいつ頃からですか。」
「昨年末の頃だ。」 「委員の多くが社会現象とも言える”おいらは鯛焼き君”の位置づけに
翻弄されていた。」 「君もそうだろ。」
「はい。 子供番組から生まれた歌でしたし。」 「親やおじいちゃんが孫のために買っている。」
「確かに売れていましたが、TVの戦略もあったと思うので・・・」

「だがな。音楽ってそう言うものじゃないのか。」 「永く人に歌え継がれるのは老若男女問わず
愛されることが大事なんだ。」 「大賞が公平なら去年は”彼”に何らかの賞を与えるべき
だったんだ。」 「採点が集計されて私は直ぐに疑問に思った。」
「集計結果を知っているか?」 「はい。確か議員票20のうち、”鯛焼き君”は僅か3表だっかと。」

「あの日、生中継された”音楽大賞”をどれだけの子供達が見ていたと思う。」
「その子供達は将来もきっとこの日のことを忘れんだろう。」
「10年後、いや近いうちに”音楽大賞”は過去の遺物とて世間からも忘れられてしまう。」
「きっと、そうなっていまう。」

※事実、77年の50%代をピークに衰退の一途を辿る。 一時は公平性を全面に押した出したが
時すでに遅し。 受賞者の欠席も不評を買い、権威は喪失。 年末興行を取りやめ
イベントとしての存続に境地を見出した。

「で、私は山口の身辺を興信所を使い洗わせたんだ。」
「そしてついにヤツの影を突き止めた。」

「犯罪に影ですかね。」
羽鳥は身を乗り出した。 山口の話は事実だろう。 しかし、それほどむきになる程のもの
だろうか? どの世界にも利権は付きものだ。 私利私欲。 羽鳥は幾つも見てきていた。

「窓口はTTS局長の陣内だ。」 「この数年、業績を伸ばし多くの利権を手中に収めている。」
ただ音楽業界に関しては太陽